My Horses, My Teachers(日本語訳)

アロイス・ポジャイスキー(Alois Podhajsky)著My Horses, My Teachers( Trafalgar Square Publishing : 1997) の日本語訳である。著者はウイーンのスペイン乗馬学校の高名な所長且つトレーナーである。書名は馬に教えられることが無数にあり、乗り手にとってもトレーナーにとっても馬自身が教師であるといった意味である。
以下はその日本語訳の「目次」と「はじめに」である。
わが馬、わが師

 

歩く限界

ヒトのロコモーション(locomotion)の話をしたい。馬やヒトも含めて生き物が移動(locomotion)のためにとる歩様は実にさまざまで興味深い。ヒトが取る歩様は身近なことであるので最もよく調べられている。「歩く」、「走る」がヒトがする基本的な歩様である。
今回は「歩く」時の速度の限界について考えてみる。「これ以上速くは歩けない」という速度がある。これ以上の速度であると、ヒトは走り出す。この限界の速度はどのようにして決まるか?と、いう問題である。
研究者はこのような問題を考えるときに、実際のヒトの体の細部は無視して、問題をできるだけ単純な形、つまり「模型」で考えてみる。この模型が単純であればあるほど真実に迫っていると考える。Simple is the best(簡単なほどよい)とする精神である。
以下の図は、ヒトの片足のモデルでR.M. Alexander著”Priciples pf Animal Locomotion”から取ったものであるが、多分最も単純なモデルである。膝の関節も無く足は一本の棒であるこの先端は地面を押し、片方の先端に体重の大部分を占める体がある。「歩く」とはこの棒の先端を地面に着けて片方の先端にある体を弧を描いて運ぶことである。
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ヒトの片足モデル
ヒトの片足モデル

歩く模型:(Principles of Animal Locomationより)
こんな簡単のモデルでなにか面白いことが出せるかな?と疑問になるが、結構使えることが分かる。紐の先に石を結んで石が円を描くように回すと拳は石から石の方向に向かう力を受ける。だから拳から紐を放すと石は飛んでいくわけである。この力が遠心力である。 上のヒトが歩くモデルでも地面に接した棒の先端を支点として体は円運動をしているとみなせる。重力で遠心力で体が地面から放れるのを防いでいるが、ある速度以上になると遠心力が重力を打ち勝ち、足は地面から放れる。これが「歩く」限界の速度である。このモデルを使うとこの限界速度が出せる。この限界速度は重力の大きさと足の長さにのみによるとでる。地上で90cmの長さの足を持つとして計算すると限界速度は3.0m/sとでる。実験で歩行のスピードを測ると、日常的な世界では2m/s程度、少し速足では2.7m/s程度である。モデルが示す値はかなりよい一致を示す。因みに、競歩での歩く速度の限界は4.4m/s程度だそうだ。これは尻の動きを特別な形にして見掛けの足の長さを長くさせていることからくると考えられている。
地球上から月面上に移ったらどうなるのだろうか? 月面の重力は地上の6分の1だからこれを考慮するは地上の場合の3.0m/sは1.2m/sとなる。かなり小さい速度で走りだすわけである。