対称性のやぶれ

馬も含めて四肢を使った歩様(Gaits)で移動する生き物の歩様は(左右)対称性歩様と(左右)非対称性歩様に分類される。いずれの歩様も周期的な歩様である。1周期内の時間を1サイクルと呼ぶことにする。
対称性歩様(Symmetrical Gaits)は左側の二肢の動きのパターンが半サイクル後に右側の二肢に現れる。だから半サイクルずらすと左右のパターンは鏡面対称になる。典型的なものが馬の速歩(Trot)で見られる斜対歩である:

①   ②

②   ①
馬の歩様の中でこの対称性を持つものは、常歩(Walk),速歩(Trot)があり、静止(Still)も歩いていないけれどこの対称性を持つ。
ところが駈歩(Canter)にはこの対称性がない。このような歩様を非対称性歩様(Asymmmerical Gaits)と呼ぶ。だから馬の速歩から駈歩への歩様の遷移は「対称性のやぶれ」である。常歩から速歩への遷移にはこの「対称性のやぶれ」はない。この点で、馬の歩様の遷移では、常歩から速歩の遷移より、速歩から駈歩の遷移が興味深い。
なぜ馬は速く移動したいときに非対称性歩様をとるのか?
インパラなどの動きをみると捕食者が現れるとホッピング(Hopping)をして敵から逃げる。ホッピングは対称性を持った歩様である。

②   ②

①   ①
ホッピング
瞬間的に左右にコースを変える場合でもこのホッピングを維持したまま行う。多分インパラの体重が軽いのでこのようなことができるのかもしれない。
馬も含めて体重のある草食動物が捕食者から逃れるため、左右にコースを変えたいときには慣性は大きすぎてホッピングを維持してのコース変更は困難だろう。左右のコース変更を高速を維持してできるのが馬の非対称な歩様である駆歩なのかもしれない。
駈歩(Canter)は、左右の対称性が崩れた歩様なので、右手前駈歩と左手前駈歩がある

②   ③

①   ②
右手前

③   ②

②   ①
左手前
右手前は最後に動く脚は右前肢で、駈歩で四肢が地面を離れるときに右肩が下がる。だからコースを自然と右に採れる。この反対に、左手前では、コースを自然と左に採れる。
このようなことが馬が非対称性歩様である駈歩で走る理由のように思える。体重のある草食動物(象は重すぎて速歩でおわり)は高速では非対称性歩様で走り回ると思う。